負けるべくして負けた?「失敗の本質」
小池都知事が読んでいるということで話題となった、
失敗の本質 日本軍の組織論研究 中公文庫
破綻する組織の特徴
・トップからの指示があいまい
・大きな声は論理に勝る
・データの解析が恐ろしくご都合主義
・「新しいか」よりも「前例があるか」が重要
・大きなプロジェクトほど責任者がいなくなる(表紙より)
今の若い人には日本がアメリカと戦争したことを知らない方もいるということです。
また、軍部が暴走したから戦争が起こった。軍が悪いとも。
そもそも当時の日本人は戦争に対してあまり悪いイメージは持っていなかったと思います。日露戦争、日清戦争、第1次世界大戦とすべて日本は勝っており、アメリカの経済封鎖を受けた時も、
「あー、不景気だし、アメリカも調子に乗っているし、ここらで戦争でもしてくれないかなー」といった感じでしょう。もちろん全員ではないにしろ、そういった空気だったと想像できます。
ちょっと懲らしめる程度で、誰も本気で勝てるとは思っていなかったのではないでしょうか。なにせあちらは日本の国力の30倍。当時の世界の石油の8~9割はアメリカが生産していたのです。対する日本は
・ガソリンがないので薪で車を動かす。
・そもそも運転免許を持っている人がほとんどいない。
・貧しいのでブルトーザーなどの建機を用意できない。(買えないのもあるが、社会が
貧しいので、作業員に給料をあげないと社会が回らない。)
・軍人も貧しいので、給料を上げる為に作戦を立てる。(特別な手当が出るため)
・工業力が低すぎて同じネジを作ることができない。
・金属が不足しすぎて、最終的に陶器でお金を作る。
・湿度が高い南方戦線でも、防水できるのはお米の入っていたゴム製の袋と避妊具の
み。等々
勝てるはずがありません。
その上で、組織もまずかったとなれば、絶望的です。
日本軍は、逆説的ではあるが、きわめて安定的な組織だったのではなかろうか。「彼等(陸海軍人:筆者注)は思索せず、読書せず、上級者となるに従って反駁する人もなく、批判を受ける機会もなく、式場のご神体となり、権威の偶像となって温室の裡に保護された。永き平和時代には上官の一言一句はなんらの抵抗を受けず実現しても、一旦戦場となれば敵軍の意思は最後の段階迄実力を以て抗争することになるのである。政治家が政権を争い、事業家が同業者と勝敗を競うような論争的訓練は全然与えられていなかった」(高木惣吉『太平洋海戦史』)。さらにいえば、日本海軍について、次のような指摘がある。
単一民族、大家族主義の上に組織された生活共同体的日本軍であった。病気で務まらなくなるとか、よくよくの失態でもないかぎり、誰でも大佐まで進級させる。平時は福祉にも十分注意を払っていた。海に隔てられた別世界だった。(P376~377)
あれ、ホワイト企業じゃないか。
失敗しても、次がんばろうなで留任。この人「がんばっているから!」で評価が出て、その場の空気で会議の結論が決まる。
対するアメリカ軍は徹底的な能力主義。失敗したら更迭。その失敗から学ぶために徹底的に研究。業績評価は明確。絶えず変わろうとする姿勢。
私は仕事ができる方ではないので、旧日本軍的な「階級」に従うべきという社会は嫌いではありません。年功序列で経歴の長い人に従えというのも悪くないと思います。
しかし、戦、また現在の生き馬の目を抜くがごとき社会で生き抜くには、能力主義前提の組織でないと勝てないのでしょう。なあなあな組織は崩壊し、皆が露頭に迷ってしまいます。組織も崩壊してしまえば、意味がない。
実際、大日本帝国は「滅びの美学」を求めながら消滅しました。
世界中を敵に回したり、史上最大な海戦をしたりした当時の日本はいろいろ問題もあったにせよ凄いものだったと思います。失敗や成功、多くの犠牲があった中から我々はまた多くを学ばなければなりません。
最後に、太平洋戦争時に犠牲になった組織に恵まれた人、恵まれなかった人に
合掌